2017.03.21社員ブログ

第六回 ターポリンのような人?

 

カリフォルニア旅行中に

バーで楽しくテキーラショット…

どれくらいの時が過ぎたのだろうか。

 

朦朧とした中、そこには何もない、ただただ広い砂漠が私が目を覚ますのをずっと待ち続けていた。

砂漠を味方につけることでしか、この異国での孤独感を誤魔化せなかった。

 

私の長年のバディー(iPhone )がポケットの中にちゃんといることを確認した。

寂しさを紛らわすために普段はあまり使わないSiri に話し相手になってもらおう。

 

「モーテルへの帰り方教えて」

 

「ゴフンゴニトラックガクルカラノセテモラエ」

 

なんでタメ口なんだ?そんな設定した覚えがない。

すると、遠くからトラックが本当に来た。

ドライバーさんはいい人だといいな。

 

あれ?ドライバーさん何処?

え?無人?自動運転?ゴースト?

 

「イイカラトラックノレ」

 

Siriの声がトラックの中から聴こえてきた。

私は只々指示に従うままトラックに乗る。

運転席にはやっぱり誰も乗っていなかった。

 

「シートベルトシトケヨ」

 

ちゃんと交通ルールを理解しているようで良かった、と思いながら私はシートベルトをしめた。

ロードムービーで観たあの何もない、一直線に伸びた道路。

走るトラックからの景色は日本では見たことのない大きくていびつな形をしたサボテンが至る所に生えているのが分かった。

 

だんだんと景色に建物の輪郭が現れ、しばらくしてトラックはあるファーストフード店に入っていった。

 

「ハラヘッテルダロ」

 

そういえば、昨日の夜からちゃんとした食事をしていない。すこし、小腹がすいていることを伝えるとSiriはドライブスルーのインターフォンに向かって注文をした。

 

トリプルチーズトリプルパティハンバーガーセットポテトXLコークXXLサイズプリーズ」

 

え…?

わたし、小腹がすいているって、さっき伝えた筈だよね…

有無を言わさずトラックは受け取り口まで進み、私の目の前に大きな石みたいなサイズのハンバーガーに、

バケツサイズのコーラ、それからiPad miniくらいの箱に入ったポテトが登場した。

 

「オレノオゴリダ」

 

これを食べなかったらどうなるのか…?

というか結局わたしの口座から引き落とされるよね?

 

「オレノブンマデクッテクレヨナ」

 

なんとなく感じるプレッシャーに、私は顎が外れそうなくらい大きなハンバーガーに、ガブリとかぶりついた。

 

「イイクイップリダ」

 

お残しは許されない…。

 

「アンガイタフダナ」

 

なんとか、本当になんとか食べ切れた私は、不思議と達成感に包まれていた。

トラックはまた道なりを走り続けた。

 

「ク〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

J・カビラか?

Siriが突然奇声を発した。

 

「オレコンドルトハナシデキルンダゼ」

 

え、自慢?

なんて思っていたら、窓をコンコン、コココココンと叩く音がした。振り返れば、奴がいた。

コンドルだ。

 

「ク〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「クク、ク〜〜〜〜〜〜」

 

J・カビラとJ・カビラが会話してるみたい。

私も混じりたくて、真似をしてみた。

 

「く〜、あっ痛いっ」

 

コンドルに頭をつつかれた。

Siriいわく私のク〜〜は博多華丸だと評価された。

なんかくやしい。

しばらく真似してはつつかれるという事を繰り返し、

私の頭もそろそろ穴があくんじゃないかと心配になってきたところで、

 

「この先すこしコンドル」

 

コンドルが喋っていることが分かった。

しかも交通情報を教えてくれたではないか。

 

「ク〜〜〜〜」

 

お礼を言うつもりで言ってみたら、その気持ちが伝わったらしく、今度は頭をつつかれなかった。

 

「ムムッ」

 

J・カビラ、いや、コンドルがまた何かを教えてくれるようだ。

 

「右手、スヌープドッグ」

 

言われるまま右手側の車道を見てみると、オープンカーにのったスヌープドッグらしき人とすれ違った。

本物かどうかは定かではないが、なんだか嬉しかった。

 

「もうすぐ、目的地周辺デス」

 

辺りはネオンでチカチカと光り輝き、私が泊まっているモーテルの近くまで辿り着いた。

いろんな情報を教えてくれたコンドルとお別れをして、トラックはついに目的地に到着した。

 

【モーテル ONIGASHIMA】

 

日本語が喋れない日系アメリカ人が営むこのモーテル。名前は変だがどこか懐かしさを感じる雰囲気だ。

トラックを運転してくれたSiriとも、お別れの時間がやってきた。

 

「ナンカヨー、サミシイナー。オマエヨー、サイショハ、ヨワソウナ、サルミタイデヨー、

デモイツノマニカ、ボスザルミタイニナッタナー、タフザルダヨ、タフザル〜」

 

ちょっと口の悪いSiriは名残惜しそうに語り出した。

そういえば、彼?に名前はあるのだろうか。

温かみのある人情深い君の名は…?

 

「オレ?オレハSiriカラウマレタSiriタローダヨ」

 

思わずドーンブラコーッとずっこけた。

 

 

これはとある印刷会社で働く、紙をこよなく愛する人が、

紙の特徴を伝えたいという想いから始まった、紙を擬人化したショートストーリーである。

 

「紙女」

第一回 マット紙のような人

第二回 光沢紙のような人

第三回 耐水紙のような人?

第四回 メッシュのような人

第五回 合成紙糊あり・なしのような人

第六回 ターポリンのような人?

第七回 パワー合成紙のような人