2017.02.15社員ブログ

第五回 合成紙糊あり・なしのような人

「では第一問です!」

 

深夜の生放送番組、『クイズ・もってけドロボー』がはじまった。

 

「このジャンボシュークリームの中にクリームは入っているか、いないか?さあ、どっち!?」

 

ヨコハマ県ヨコスカ市在住K大出身の双子姉妹、落合アリエとナシエが今回の挑戦者だ。

姉のアリエが瞬発的に答えた。

 

「そのシューには、クリームが詰まっている充実感が感じられます。よって答えはクリーム、アリです!」

 

「その答えでよろしおすかぁ?」

 

司会のユポ太郎が尋ねる。

 

「自信アリ」

 

アリエは胸を張って答えた。

しばらく、ユポ太郎のねちっこい顔芸がテレビ画面いっぱいに映る。そして少しの沈黙の後、

ネチャアと言いそうな口を開き、一言。

 

「もってけドロボー!」

 

客席がワッと湧いた。

これは、正解だった場合の番組おなじみのフレーズなのだ。

姉のアリエとナシエは、ラッパーのような気だるげなハイタッチを交わした。

 

「では、第二問!このコーヒーは、カフェインありか、なしか?さあ、お答えください!」

二問目もまた難しい。

しかし双子は表情を崩さず、真剣な眼差しでコーヒーを見つめている。

姉のアリエがゆっくりと頷くと、今度は妹のナシエが答えた。

 

「コレ、深夜番組ですよね?つーことは、今夜も眠らせないぞ的な思考でカフェインアリなんじゃないか?って思わせるひっかけ問題なんじゃないか?って思ったわけですよ。つーことで答えはカフェインなし!」

 

これも見事に正解し、2人はその後も順調に正解し続け、いよいよ最終問題に突入した。

司会のユポ太郎が神妙な面持ちでマイクを握り直した。

 

「それでは、最終問題です・・・

この世に、ユーレイは存在するか、しないか?さあ、お答えください!」

 

客席がざわついた。

双子の表情にも少しばかり戸惑いが感じられた。

 

「私は、ユーレイ、いると、思う。」

 

姉のアリエが、小さな声でぽそりと呟いた。

それに対してナシエは眉をピクリと動かし、姉の目を見ずこう言った。

 

「私は、ユーレイ、いないと思うっつー。」

 

2人の意見が、はじめて分かれた瞬間である。

 

「だって」

姉のアリエがこぶしをぐっと握り、答えた。

「だって、見たもん!きのう。コンビニで。」

 

ア、アリエナイ・・・

ナシエはそんな表情で姉のことを見たが、尚も姉は続ける。

 

「なんかー、コンビニでー、お茶買おーって思ったらー、なんかー、隣にいたおじさんがー、スーって、透明になってー、消えたのー。それってさー、ユーレイだよねー?アリエルよねー?

 

先ほどまでのしっかりした姉アリエはどこへ。

年頃の女の子のような、ねっとりとした口調で、彼女はユーレイいる説を話しだした。

しかしナシエは揺るがない。

 

「それ幻覚じゃね?つーか、シュミラクラ現象じゃね?」

 

それを聞いたアリエは、顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「おま、おまえを、ユーレイにしてやろうくああああああ」

 

アリエはその叫びと共に獲物を見つけた虎のごとく呆然とするナシエに飛びかかり、胸ぐらを思いっきり掴んでぐわんぐわんと揺らす。ナシエはまるでユーレイを見たような顔で、アリエに訴える。

 

「チョット!これ繊細な服なんだから!指紋つけないでよおおお」

「うるさーい!ユーレイは、いるの!」

「そんなの、いない!アリエナイ!」

「アル!」

「ナイ!」

「アリ!」

「ナシ!」

「有(う)!」

「無(む)!」

 

そこから壮絶な姉妹ケンカが生放送で始まった。

客席がザワザワとざわつき始めた一方で好奇心の塊、ハプニングこそテレビジョンだと思っている司会のユポ太郎は今の状況をプロレス番組のように鼻息荒く実況しはじめた。

 

「おーっと、ここで姉のアリエがナシエを俵担ぎし客席へ投げ込んだー!場外乱闘です!ナシエもすぐに立ち上がり、姉のつけまつ毛をひっぺがしたー!これは地味にくるダメージ!どうするアリエー!」

 

白熱するユポ太郎の解説に、ボサボサ頭のナシエが「つーか」と振り向いた。

 

「最終問題の内容がおかしくないすか?つーかこれ、誰が考えたんだっつー。」

 

つけまつ毛が顎についているアリエも冷静になったのか、同意した。

 

「たしかに。私達がこんなケンカしてるのも、クイズの内容のせいですよね?誰ですか、最終問題を考えた人は!

 

ユポ太郎の冷や汗が止まらない。

何故ならこの最終問題は、彼、ユポ太郎が考えたのだった。飲み込んだ生唾が、ごくりと言った。

彼女達の怒りの矛先が、自分に向いている。

 

ズンズンと2人がユポ太郎に近づき、彼の派手なシマウマ柄の衣装に右側がアリエ、左側をナシエがむんずと掴み、「せーの」の合図で思いっきり引っ張った。

 

途端、ビリィっという音が響き、一瞬ユポ太郎のあられもない姿が見えたと思ったら、テレビ画面に暫くお待ち下さいの文字が映った。

 

「す、すごいものを見てしまった。」

私はすっかり冷めてしまった緑茶をこくんと飲み、呟いた。

 

後日、新しい番組が始まった。その名も、

「アリエとナシエのアリエルナシエル世界」

 

そう、先日の生放送での出来事が日本中の話題になり、2人の柔らかな雰囲気の中に潜む力強さに惹かれた視聴者が、彼女達の虜になり、いまやすっかりお茶の間の人気者になったのだ。

 

一方ユポ太郎は、生放送での動画がYouTubeで100万回再生され、彼も時の人となり注目を集めた。

 

後日、アリエとナシエ、ユポ太郎はお互いの活躍に「結果、win-winだったね」と笑いあい、

気だるげにハグをし和解したそうだ。

 

更に余談だがあの生放送以来、ユポ太郎は破れない化学繊維の衣装を着るようになったそうだ。

正に、アリエナイような、アリエル世界である。

これはとある印刷会社で働く、紙をこよなく愛する人が、

紙の特徴を伝えたいという想いから始まった、紙を擬人化したショートストーリーである。

 

「紙女」

第一回 マット紙のような人

第二回 光沢紙のような人

第三回 耐水紙のような人?

第四回 メッシュのような人

第五回 合成紙糊あり・なしのような人

第六回 ターポリンのような人?

第七回 パワー合成紙のような人