第五回 合成紙糊あり・なしのような人
「では第一問です!」
深夜の生放送番組、『クイズ・もってけドロボー』がはじまった。
「このジャンボシュークリームの中にクリームは入っているか、
ヨコハマ県ヨコスカ市在住K大出身の双子姉妹、落合アリエとナシエが今回の挑戦者だ。
姉のアリエが瞬発的に答えた。
「そのシューには、
「その答えでよろしおすかぁ?」
司会のユポ太郎が尋ねる。
「自信アリ」
アリエは胸を張って答えた。
しばらく、
ネチャアと言いそうな口を開き、一言。
「もってけドロボー!」
客席がワッと湧いた。
これは、正解だった場合の番組おなじみのフレーズなのだ。
姉のアリエとナシエは、
「では、第二問!このコーヒーは、カフェインありか、なしか?さあ、お答えください!」
二問目もまた難しい。
しかし双子は表情を崩さず、
「コレ、深夜番組ですよね?つーことは、
これも見事に正解し、2人はその後も順調に正解し続け、いよいよ最終問題に突入した。
司会のユポ太郎が神妙な面持ちでマイクを握り直した。
「それでは、最終問題です・・・
この世に、ユーレイは存在するか、しないか?さあ、
客席がざわついた。
双子の表情にも少しばかり戸惑いが感じられた。
「私は、ユーレイ、いると、思う。」
姉のアリエが、小さな声でぽそりと呟いた。
それに対してナシエは眉をピクリと動かし、
「私は、ユーレイ、いないと思うっつー。」
2人の意見が、はじめて分かれた瞬間である。
「だって」
姉のアリエがこぶしをぐっと握り、答えた。
「だって、見たもん!きのう。コンビニで。」
ア、アリエナイ・・・
ナシエはそんな表情で姉のことを見たが、尚も姉は続ける。
「なんかー、コンビニでー、お茶買おーって思ったらー、
先ほどまでのしっかりした姉アリエはどこへ。
年頃の女の子のような、ねっとりとした口調で、
しかしナシエは揺るがない。
「それ幻覚じゃね?つーか、シュミラクラ現象じゃね?」
それを聞いたアリエは、顔を真っ赤にして叫んだ。
「おま、おまえを、ユーレイにしてやろうくああああああ」
アリエはその叫びと共に獲物を見つけた虎のごとく呆然とするナシ
「チョット!これ繊細な服なんだから!指紋つけないでよおおお」
「うるさーい!ユーレイは、いるの!」
「そんなの、いない!アリエナイ!」
「アル!」
「ナイ!」
「アリ!」
「ナシ!」
「有(う)!」
「無(む)!」
そこから壮絶な姉妹ケンカが生放送で始まった。
客席がザワザワとざわつき始めた一方で好奇心の塊、
「おーっと、
白熱するユポ太郎の解説に、ボサボサ頭のナシエが「つーか」
「最終問題の内容がおかしくないすか?つーかこれ、
つけまつ毛が顎についているアリエも冷静になったのか、
「たしかに。私達がこんなケンカしてるのも、
ユポ太郎の冷や汗が止まらない。
何故ならこの最終問題は、彼、ユポ太郎が考えたのだった。
彼女達の怒りの矛先が、自分に向いている。
ズンズンと2人がユポ太郎に近づき、
途端、ビリィっという音が響き、
「す、すごいものを見てしまった。」
私はすっかり冷めてしまった緑茶をこくんと飲み、呟いた。
後日、新しい番組が始まった。その名も、
「アリエとナシエのアリエルナシエル世界」
そう、先日の生放送での出来事が日本中の話題になり、
一方ユポ太郎は、
後日、アリエとナシエ、ユポ太郎はお互いの活躍に「結果、
気だるげにハグをし和解したそうだ。
更に余談だがあの生放送以来、ユポ太郎は破れない化学繊維の衣装を着るようになったそうだ。
正に、アリエナイような、アリエル世界である。
これはとある印刷会社で働く、紙をこよなく愛する人が、
紙の特徴を伝えたいという想いから始まった、紙を擬人化したショートストーリーである。
「紙女」
第一回 マット紙のような人
第二回 光沢紙のような人
第三回 耐水紙のような人?
第四回 メッシュのような人
第五回 合成紙糊あり・なしのような人
第六回 ターポリンのような人?
第七回 パワー合成紙のような人