第八回 電飾フィルムのような人
「ふぅ。」
今日は残業だったから、いつもより遅い時間のバスだ。
時刻表を確認して、誰もいないバス停のベンチにどかっと座った。
年末という事もあって、人の気配がなく、しんと静まり返った街並みをぼーっと眺めていると、
突然、
「デンデンデーン デデデン デデデン デーンデーンデン デデデン デデデン」
どこからか、ハスキーボイスなダースベイダーのテーマ曲が聞こえてきた。
でも、辺りを見回しても、私しかいない。
「ヘイ、ユー、ヘーイ」
カタコトの日本語で誰かに呼ばれているけど、どこから、誰に呼ばれているのか、全く分からない。
すごく怖い・・・
「ルックアットミ~」
恐る恐る、声が言う方を見てみると、バス停に備え付けてある、電飾看板しかない。
もとい、明るく光るデンゼルワシントンしかいない。
「ナイスチューミーチュー」
・・・しゃべっている。
電気ブランの広告が、デンゼルが、しゃべっている。
これは最新の技術かな?
それとも、私が疲れているのかな?
「ヘイユー、オデン、カッテキテヨ」
「は?」
「ドンチューノージャパニーズ・オデン?」
「知ってます、けど、ここら辺に、おでん、ないですよ」
「ナーンデーンヤネーン!スグソコニ、コンビニアルヤーン!」
なぜ知っているのか。
渋々、私は彼のリクエスト通り、味しみ大根を買ってきてあげた。
というかこの人、食べれるのか?
「ねえ、あなた、看板だよね?おでん、食べれないよね?」
デンゼルは暫くきょとんとした後、顔をわなわなと震わせ、ぱっちりした目をさらに大きくかっぴらいて叫んだ。
「オーマイ、ゴーッシュ」
そして、頬を赤らめながら、恥ずかしそうにこう言った。
「デンデンシラナカッタヨ~」
行き場をなくした味しみ大根を、彼の分まで味わおう。
だしが染みたほくほくの大根を一口噛むと、じんわりとうまみが口の中に広がった。
「ア~、オデ~ン、タベレナ~イ、ショック~」
「オデ~ン、ショック~」
「デ~ン、ショック~」
「デンショ~ック」
はっ
寝ていた。
あんな変な夢なんか見ちゃうほど、私ってばやっぱり疲れてたんだ。
ふと、バス停の電飾看板を見てみると、電気ブランを持ったデンゼルワシントンが、
にっこりと私に笑いかけている。ように見えた。
これはとある印刷会社で働く、紙をこよなく愛する人が、
紙の特徴を伝えたいという想いから始まった、紙を擬人化したショートストーリーである。
「紙女」
第一回 マット紙のような人
第二回 光沢紙のような人
第三回 耐水紙のような人?
第四回 メッシュのような人
第五回 合成紙糊あり・なしのような人
第六回 ターポリンのような人?
第七回 パワー合成紙のような人
第八回 電飾フィルムのような人